ツンデレかぐやちゃん(竹取物語)

竹取物語を現代風に訳してみました

大納言、かぐや姫を人殺し呼ばわり

 それで、国の役人に言って、担架を作ってもらって、それに乗ってウンウン呻きながら家に帰ったんだけど、その話をどこからか聞きつけて、部下達が大伴大納言の家にみんな集まってきて、
「竜の首の珠を取ってくることが出来なかったため、今まで、大納言様の所に戻ってくることが出来ませんでした。ですが、竜の首の珠を取ってくることが困難な事であると、大納言様もご承知されただろうと思って、ここに帰って来た次第でございます」
と言うと、大伴大納言も起きあがって
「おまえ達、よくぞ首の珠を取らずに帰ってきた。わしもようやく分かったが、竜は雷神のような存在で、もし、首の珠を取ろうと思って出かけていったら、おまえたち自信が被害にあっただろう。また、首尾良く竜の首の珠を取ってきたところで、竜の怒りに触れ、それを命じた私自身が竜に一発でやられていただろう。本当に、よく捕らえずに帰ってきた。かぐや姫というのは、本当にとんでもない悪女だ。竜の首の珠を欲しいと言っていたが、本当は、わしを殺そうとしたんだ。わしは、もう、あの家には近づかん。おまえ達もあの女のところに行っちゃいかんぞ」
と言って、家に少し残っていた金銭などを部下に与えたんだって。


 ただ、離縁されていた前妻などは、この話を聞いて腹を抱えて笑ったし、かぐや姫を迎えようとして造った立派なお屋敷の屋根の飾りにしていた糸は、巣作りをしているカラスやトンビに持って行かれてボロボロ。
 そして、世間でも、大伴大納言の噂話でもちきり。
「大伴大納言は、竜の首の珠を持ってきたんだろ?」
「いやいや、持ってきたのは、目ん玉に着けたスモモの玉が二つさ」
「え? そんな玉じゃ食べられないじゃん」
なんて、笑い話をしていたんだって。
 その「食べられない」が、後になって言葉が変わっていって「耐えられない」になったんだそうだよ。なんちゃって~。

<ワンポイント解説>
 冒頭の「ウンウン呻く」は、原文では「によふによふ(にょうにょう)」。「によふ」で呻くという意味です。当時は、うめき声が「ニョウ」に聞こえたんでしょうか?


 また、例によって、なんちゃって解説は、やはり掛詞になっています。「たへがたし」は「食べがたし」と「耐え難し」の両方に読めることから「食べられない」が「耐えられない(あまりに酷くて我慢できない)」の意味に変わったという話になっています。

<参考用原文>
 国に仰せ給ひて、手輿作らせ給ひて、によふによふ荷はれて、家に入り給ひぬるを、いかでか聞きけむ、遣はしし男ども参りて申すやう、
「竜の首の珠をえ取らざりしかばなむ、殿へもえ参らざりし。珠の取り難かりしことを知り給へればなむ、勘当あらじとて参りつる」
と申す。 大納言起き居てのたまはく、
「なんぢらよく持て来ずなりぬ。竜は鳴る雷の類にこそありけれ。それが珠を取らむとて、そこらの人々の害せられむとしけり。まして竜を捕らへたらましかば、また、こともなく、我は害せられなまし。よく捕らへずなりにけり。かぐや姫てふ大盗人の奴が、人を殺さむとするなりけり。家の辺りだに今は通らじ。男どももな歩きそ」
とて、家に少し残りたりける物どもは、竜の珠を取らぬ者どもに賜びつ。

 これを聞きて、離れ給ひし本の上は、腹をきりて笑ひ給ふ。糸を葺かせ造りし屋は、とび、からすの巣に、皆くひもていにけり。世界の人の言ひけるは、
「大伴の大納言は、竜の首の珠や取りておはしたる」
「否、さもあらず。御眼二つに、すもものやうなる珠をぞ添へていましたる」
と言ひければ、
「あなたべ難」
と言ひけるよりぞ、世にあはぬことをば、「あなたへ難」とは言ひ始めける。