ツンデレかぐやちゃん(竹取物語)

竹取物語を現代風に訳してみました

かぐや姫、月に帰ってしまう

 その手紙に
「このようにたくさんの人をこちらに送られて、月に行くのを引き留めようとしてくださったにも関わらず、それを許さぬ月の使者たちですから、ここから去っていかなければなりませぬが、その事を、とても悔しく、悲しく思っております。帝にお仕えするのをずっとお断りしてきましたが、実は、このような事情があったのです。きっと帝は、このことを知らずに、私を宮中に仕えるようにおっしゃっていたと思いますが、頑なに拒み続けていたことで、私の事を無礼な女であると思っていらっしゃることと存じます。そのことが、私にはとても心残りでございます」
と書いたあと、
(天の羽衣を着る今になってから、帝の事を愛おしく思います)
と和歌を最後に添えてたんだって。そして、その手紙を「不死の薬」の壺につけて、かぐや姫防衛隊の中にいた頭中将(とうのちゅうじょう)を呼び寄せると、月の使者に
「この手紙を頭中将に渡してください」
と頼んだら、月の使者は、さすがに諦めたのか、このときは咎めずに、かぐや姫に言われたとおり、頭中将に渡してくれたんだって。かぐや姫は、それを確認して、天の羽衣をサッと羽織ると、そのとたん、爺さんと別れを悲しんだ事さえ忘れて、何の躊躇もなく、飛ぶ車に乗って、迎えに来た百人あまりと共に、月に帰っていったんだってさ。

 そのあと、爺さんも婆さんも、まるで涙に血が混じってしまうと思われるくらい、かぐや姫に「返って来て欲しい」と泣いて願ったんだけど、もちろんそれは無理。それで、かぐや姫が書き残していった手紙を読んでいると、側にいた人が
「讃岐造さまも、不死の薬をお飲みになってはいかがですか?」
と、勧めてきたんだけど、
「こんな事になって、長生きしたって誰のための長生きなのか。そんなに生きたって、もう、かぐや姫は帰ってこないだろ。だったら、命なんか惜しくない」
と言って、置いていった「不死の薬」を飲もうとせず、ついに、病気になってしまったんだって。

 また、かぐや姫から手紙を預かった頭中将は、みんなを率いて都に帰り、かぐや姫が連れて行かれてしまった顛末を細かいところまでしっかり帝に伝えたんだって。そして、そのときに、壺の薬と手紙を帝に渡すと、その手紙を見た帝は、かぐや姫の事を愛おしく思い、物も食べず、遊興などもパッタリと止めてしまったんだって。
 そして、ある時、大臣たちを呼んで
「どの山が一番、天に近い山だろうか」
と聞くと、大臣の中の一人が
静岡県に高い山がありまして、都から行くのにもちょうど良いかと」
と答えたので、
(もうすでに、会うことが出来ない私には、不死の薬は必要ありません)
と和歌を詠んで、かぐや姫からもらった不死の薬の壺に、今、詠んだ和歌をつけて使いの者に渡し、登山隊の隊長を調石笠(つきのいわかさ)に任命して、その者に、
「静岡の山の頂上まで行き、この手紙と壺を焼いてくれ」
と命じたんだって。
 その命に従って、調石笠が大勢の兵隊を連れて登ったので「不死の薬を焼いた山」から「不死の薬の山」とか「たくさん(富む)の武士が登った山」から「富(武)士の山」というふうに言われるようになって、それで最終的に「富士の山」と言うようになったんだって。なんちゃって~。
 ちなみに、その山の頂上から出ている煙、未だに消えず、かぐや姫のところに届こうと、ずっと雲の方まで昇っていっているんだってさ。

<ワンポイント解説>
 ここで、物語はお終い。それで、最後の「富士山」の語源ですが、原文は「兵どもあまた具して、登りけるよりなむ、その山を『ふじのやま』とは名付けける」だけです。文書をそのまま解釈すると「兵隊がたくさんのぼっていったことから、ふじのやまと名前がついたんですよ」ということで、一般的には「武士がたくさん」から「士が富む」という解釈で「富士の山」と訳しているものが多いようです。中には「不死の薬」を焼いたから「不死の山」とするものや「煙がいつまでも上り続けている」から「煙がつきない」を「煙が不尽」として「不尽の山」がなまったという解釈で訳しているものもあって、いずれにせよ、ここでは、なっちゃって解説なので、皆さんの好きな解釈で訳してみてください。

<参考用原文>
 かくあまたの人を賜ひて留めさせ給へど、許さぬ迎へまうで来て、取り率てまかりぬれば、口惜しく悲しきこと。宮仕へ仕うまつらずなりぬるも、かく煩はしき身にて侍れば。心得ずおぼし召されつらめども。心強く承らずなりにしこと、なめげなる者におぼしめしとどめられぬるなむ、心にとまり侍りぬる。とて、
「いまはとて 天の羽衣 着る折ぞ 君をあはれと 思ひ出でける 」
とて、壺の薬添へて、頭中将を呼び寄せて奉らす。中将に、天人取りて伝ふ。中将取りつれば、ふと天の羽衣うち着せ奉りつれば、翁をいとほし、かなしとおぼしつることも失せぬ。この衣着つる人は、物思ひなくなりにければ、車に乗りて百人ばかり天人具して昇りぬ。

 その後、翁嫗、血の涙を流して惑へどかひなし。あの書き置きし文を読みて聞かせけれど、『何せむにか命も惜しからむ。誰が為にか。何ごとも益なし』とて、薬も食はず、やがて起きもあがらで病み臥せり。
 中将、人々引き具して帰り参りて、かぐや姫をえ戦ひ留めずなりぬる、こまごまと奏す。薬の壺に御文添へて参らす。広げて御覧じて、いとあはれがらせ給ひて、物も聞こしめさず、御遊びなどもなかりけり。大臣上達部を召して、『何れの山か、天に近き』と問はせ給ふに、ある人奏す、『駿河の国にあるなる山なむ、この都も近く、天も近く侍る』と奏す。これを聞かせ給ひて、
「あふことも 涙に浮かぶ わが身には 死なぬ薬も 何にかはせむ」
 かの奉る不死の薬に、また、壺具して御使ひに賜はす。勅使には、調石笠といふ人を召して、駿河の国にあなる山の頂に持てつくべき由仰せ給ふ。峰にてすべきやう教へさせ給ふ。御文、不死の薬の壺並べて、火をつけて燃やすべき由仰せ給ふ。
 その由承りて、兵どもあまた具して山へ登りけるよりなむ、その山を『ふじの山』とは名付けける。その煙、いまだ雲の中へ立ち昇るとぞ言ひ伝へたる。