ツンデレかぐやちゃん(竹取物語)

竹取物語を現代風に訳してみました

火鼠の皮衣、灰になる

 すると、かぐや姫
「確かに綺麗な皮衣ですけど、でも『綺麗だから本物だと信用しなさい』って言うのは、やっぱり無理よ。本物だったら火に焼けないんだから、やっぱり実際に焼いてみないと納得できないわ。そこまでして、それで焼けなかったら、私も降参して、お嫁に行くことにするから。ねえ、それならいいでしょう?」
と爺さんに言うと、
「う~ん、それもそうだな」
と言って、阿部御主人に
かぐや姫が、このように言っておりますが、いかが致しましょう?」
と聞くと、阿部御主人は
「この皮衣は、もともと中国にも無かった物を何とかして探し出して、ようやく手に入れた物なんだよ。今さら、疑うこともないだろうに」
と、信用してもらえないことに、ちょっとむくれて答えたんだけど、爺さんが
「そうは言っても、やはり、本物かどうか確かめないと、姫が納得しないようですから、すぐに焼いてみてください」
と言うので、実際に火の中に入れてみると、何と、アッという間にメラメラと燃えてしまったんだって。それを見たかぐや姫
「ほら、やっぱり偽物じゃない」
と手を叩いて大喜び。一方、阿部御主人は、顔色から見る見る血の気が引いてしまって、アッという間に枯れ草のような土気色。その様子をみて、かぐや姫は、皮衣を入れてきた箱に和歌を書いた紙を入れて阿部御主人に返したんだけど、その和歌には
(綺麗な皮衣だったから、燃えると知っていたら燃やすんじゃなかったわ~。あ~あ、残念)
と書いてあったんだって。
 その和歌を見た阿部御主人は、そのまま、すごすごと帰っていたんだけど、それを知らない人たちの中には、
「ねえ、阿部御主人さんって、火鼠の皮衣を手に入れて、かぐや姫と結婚して、今、かぐや姫のお家にいるんでしょ?」
と聞いてくる人もいたんだよね。それで、事情を知っている人が
「いや、皮衣を火にくべたらメラメラと燃えちゃって、結局、かぐや姫と結婚できなかったという話だよ」
と説明してあげると、それを聞いて、みんなは「あ~、阿部御主人も会えなく撃沈か~」とお互いの顔を見合わせて大笑い。
 ちなみに「期待はずれ」や「耐えられなくなってすぐに降参してしまう」という意味で使う、この「あえなく」って言うのは、阿部御主人がかぐや姫と「会えなく」なったところから使われるようになった言葉なんだってさ。なんちゃって~。

<ワンポイント解説>
 ここでは、セリフの内容や文章の順を、意味を通りやすくするために、入れ替えているところがあります。また、ここの「なんちゃって解説」は、原文では「あへなし」。「(かぐや姫と)会へなし(結婚出来なかった)」と「敢へ無し」の掛詞になっています。
 そして、ここでは、結局「詐欺に遭う話」です。やはり地球にいる人間は、どこかしら「心の醜いところが出てくる設定」になっているようで、王慶も結局は人を騙している設定になっています。ですから、ここでは「人を騙すような事をしてはいけません」という例として挙げられているのでしょう。今でもいろいろな詐欺が横行していますが、当時と今とそれほど変わらない、ということでしょうか。

<参考用原文>
かぐや姫、翁に言はく、
「この皮衣は、火に焼かむに、焼けずはこそ真ならめと思ひて、人の言ふことにも負けめ。『世になき物なれば、それを真と疑ひなく思はむ』とのたまふ。なほこれを焼きてこころみむ」
と言ふ 。翁、
「それ、さも言はれたり」
と言ひて、大臣に、
「かくなむ申す」
と言ふ。大臣答へて言はく、
「この皮は、唐土にもなかりけるを、からうして求め尋ね得たるなり。何の疑ひあらむ」
「さは申すとも、はや焼きて見給へ」
と言へば、火の中にうちくべて焼かせ給ふに、めらめらと焼けぬ。
「さればこそ異物の皮なりけれ」
と言ふ。大臣、これを見給ひて、顔は草の葉の色にて居給へり。かぐや姫は、
「あなうれし」
と喜びて居たり。かの詠み給ひける歌の返し、箱に入れて返す。
「なごりなく 燃ゆと知りせば 皮衣 おもひの外に おきて見ましを 」
とぞありける。されば帰りいましにけり。

世の人々、
「阿部の大臣、火鼠の皮衣持ていまして、かぐや姫にすみ給ふとな。ここにやいます」
など問ふ。ある人の言はく、
「皮は火にくべて焼きたりしかば、めらめらと焼けにしかば、かぐや姫あひ給はず」
と言ひければ、これを聞きてぞ、とげなきものをば、「あへなし」と言ひける。