ツンデレかぐやちゃん(竹取物語)

竹取物語を現代風に訳してみました

大伴大納言、部下に命じる

 さて、大伴大納言は、と言うと、部下を全員集めて
「いいか、みなよく聞け。皆の知っているあの竜のことだが、その竜の首には五色の珠がついているのだそうだ。そこで、それを取ってきた者には、何でも願いを叶えてやろうと思う。いいか、皆の者、今すぐ、その竜の首の珠を取ってくるのだ」
と、部下に命じたんだって。すると、それを聞いた部下達は
「大納言様の命じる事は何があってもやらなければならないこと、とは思ってるけどさ~。さすがに竜を倒して、その首の珠を取るなどと言うことは、実際、無理なんじゃないの?」
と、お互いの顔を見てヒソヒソ話。すると、耳ざとくそれを聞きつけた大伴大納言は、
「人に仕える者は、主人がやれと言ったことは命に替えてもやり遂げるという心構えで無ければならぬ。ましてや、今回の首の珠は、インドや中国まで行って取って来なければならないと言うものではない。この国の山や海でも天に昇ると言われている竜だ。それが、どうして、すぐに無理だとそんなに騒ぎ立てるのか。情けない」
と大声で言うと、それを聞いた部下達も
「分かりました。それでは、取ってくる事にいたします。どんなに難しいことでも、命令に背くわけにはまいりません」
としぶしぶ承知。それを聞いた大伴大納言、大笑いして
「おまえ達も、私の部下として名前を知られていて、それで良い思いもしてきたであろう。それなら、私の命令に背くことなど出来るわけがない。さあ、竜の首の珠を取りに行ってこい」
と大声で命じ、竜探しの旅に必要なお金や食べ物、衣服などを出来る限り与えて、
「私は、おまえ達が帰ってくるまで、ずっとお祈りをして待っていよう。だから、おまえ達も、竜の首の珠を取ってくるまで、帰ってきてはならんぞ」
と言って、部下を送り出したのさ。

<ワンポイント解説>
 大伴大納言というのも日本書紀に出てくる実在の人物名で、672年の壬申の乱のときに功績があった武人。ですから、当時の人たちは、おそらく「大伴大納言」と聞いただけで軍隊を率いているということが分かっていたのではないかと思います。


 また、竜というと「竜巻になって天に昇っていく」とされていました。竜巻に「竜」の字が入っているのは、そういう伝説をふまえてのこと。そして、その竜巻は日本の各地で見られていたわけですから「外国に行かなくても日本で捕まえられるだろう」と言うわけです。他の人が持ってくる物に比べれば、まだ、竜の首の珠の方が楽だろう、という気持ちでいたことがここで分かりますね。

<参考用原文>
 大伴御行の大納言は、我が家にありとある人、集めて、のたまはく、
「竜の首に五色の光ある珠あなり。それを取りて奉りたらむ人には、願はむことをかなへむ」
とのたまふ。 男ども、仰せのことを承りて申さく、
「仰せのことはいとも尊し。但し、この珠たはやすくえ取らじを、いはむや竜の首に珠は如何取らむ」
と申しあへり。大納言のたまふ、
「君の使ひといはむものは、命を捨てても、おのが君の仰せ言をばかなへむとこそ思ふべけれ。この国に無き、天竺・唐土の物にもあらず。この国の海山より、竜は下り上るものなり。如何に思ひてか、なんぢら難きものと申すべき」
 男ども申すやう、
「さらば、如何はせむ。難きものなりとも、仰せ言に従ひて求めにまからむ」
と申すに、大納言、見笑ひて、
「なんぢらが君の使ひと名を流しつ。君の仰せ言をば、如何は背くべき」
とのたまひて、
「竜の首の珠取りに」
とて、出だし立て給ふ。この人々の道の糧食ひ物に、殿の内の絹、綿、銭などある限り取り出でて、添へて遣はす。
「この人々ども帰るまで、斎をして我や居らむ。この珠取り得では家に帰り来な」
とのたまはせけり。