ツンデレかぐやちゃん(竹取物語)

竹取物語を現代風に訳してみました

かぐや姫の話を聞いて、爺さん怒る

 ところが、この屋根の人と爺さんの会話を聞いていたかぐや姫
「どんなに大勢の人で戦って守っても、どんな作戦を立てても、月の都の人と戦うことは出来ません。弓矢も射ることが出来ませんし、どんなに厳重にカギを掛けても、簡単に全部開いてしまいます。戦おうとしても、月の都の人が来たら、勇敢な人は誰もいなくなってしまいますわ」
と言うと、それを聞いた爺さんは、
「いやいや、もしも、迎えの者が来たならば、この伸ばした爪で引っ掻いて目ん玉をくりぬいて、髪の毛をつかんで引きずり降ろし、袴でも何でも引っ剥がして尻を丸見えにして、みんなの笑い者にしてくれるわ」
と、腹を立てながら、そう言ったんだって。
 すると、かぐや姫は、爺さんが下品な事まで言い出すので、
「そんな大きな声を出さないでくださいませ。屋根の上の人の言うことに張り合わないでくださいまし」
と爺さんをたしなめると
「ただ、そうまで言って、私の事を守ろうとしてくれている気持ちを知って、私も、このまま月の都に去らなければならないことをすごく悔しく思います。長い間、共に過ごして来なければ、すぐに、月に帰ってもそんなに気には止めなかっただろううと思うことも、とても悲しく思いますし、親孝行も、ほんの少しもしないままですから、月に帰って行く道の途中も安心してはいられません。
 長い間、一緒に暮らしてきて、今年で月に帰っていくことを告げましたが、それを許してもらえないとなると、私の心も乱れております。そして、お爺さま、お婆さまの心を乱して去っていかなければならないことも、とても悲しく思います。
 月の都の者たちは、珍しいことに、年を取りません。悩むこともありません。ですから、そのような所へ帰っても、嬉しくはありません。年を取って老いて行く様を見ることの方が、よっぽど恋しく思います」
と言うと、かぐや姫が、相変わらず「ここから必ず去っていってしまう」という話をしているので、爺さんは癇癪を起して
「ええい、胸クソが悪くなるような事は、言ってくれるな。綺麗な使者が来たところで、絶対、邪魔をしてやるぞ」
と、ムキになって、そう言ったんだって。

<ワンポイント解説>
 恥をかくのは、死ぬことよりも辛い、という話を書きましたが、さすがに「尻を見て笑い者にする」という話は、ちょっとお下品ですね。そして、この場面のかぐや姫のセリフですが、掛詞などを意識しているのか、非常に訳しづらいところになっています。それで、大意は「別れは悲しいけれど、でも、どうしても連れて行かれてしまうのよ」と考えてもらえればいいと思います。そこで「月の都の使者がナンボのもんじゃい」と考えている爺さんが腹を立ててしまう、という流れですね。
 また、かぐや姫のセリフが結構長いので、ここでは、一部、区切りを入れてあります。

<参考用原文>
 これを聞きて、かぐや姫は、
「さしこめて守り戦ふべきしたくみをしたりとも、あの国の人を、え戦わぬなり。弓矢して射られじ。かくさしこめてありとも、かの国の人来ば、みな開きなむとす。相戦はむことすとも、かの国の人来なば、猛き心つかふ人も、よもあらじ」
 翁の言ふやう、
「御迎へに来む人をば、長き爪して眼をつかみつぶさむ。さが髪を取りてかなぐり落とさむ。さが尻をかき出でて、ここらの朝廷人に見せて、恥を見せむ」
と腹立ち居る。
 かぐや姫言はく、
「声高になのたまひそ。屋の上に居る人どもの聞くに、いとまさなし。
 いますがりつる心ざしどもを思ひも知らで、まかりなむずることの口惜しう侍りけり。長き契りのなかりければ、ほどなくまかりぬべきなめりと思ひ、悲しく侍るなり。親たちの顧みをいささかだに仕うまつらで、まからむ道も安くもあるまじきに、日頃も出で居て、今年ばかりの暇を申しつれど、更に許されぬによりてなむ、かく思ひ嘆き侍る。御心をのみ惑はして去りなむことの悲しく堪へがたく侍るなり。
  かの都の人は、いとけうらに、老いをせずなむ。思ふこともなく侍るなり。さる所へまからむずるも、いみじく侍らず。老い衰へ給へるさまを見奉らざらむこそ恋しからめ」
と言ひて、翁、
「胸いたきこと、なし給ひそ。うるはしき姿したる使ひにも障らじ」
とねたみ居り。