ツンデレかぐやちゃん(竹取物語)

竹取物語を現代風に訳してみました

庫持皇子、嘘がバレる

 ところがね、庫持皇子と爺さんがそんな話をしていると、突然、6人の男達が庭に入ってきて、身分の高い人に差し出すようにと用意した木の枝につけた手紙を持ちながら、
「私は、宮中の装飾の職人をしております、漢部内麻呂(あやべのうちまろ)と申します。食べる物も食べずに、千日近くも一生懸命に蓬莱の玉の枝を作ったのですが、まだ、その代金をいただいておりません。出来るなら、その代金をいただいて、弟子や下男にも分けてやりたいのですが」
と言って、その手紙を恭しく差し出したんだって。それを聞いた爺さん
「はあ? これって、どういうことなんだ?」
と首を傾げるばかり。ただ、庫持皇子は、顔は真っ青、背中は冷や汗でビッショリ。そこで、その職人の話を聞いていたかぐや姫
「その手紙を私に見せてちょうだい」
と言って、その手紙を見てみれば、
「庫持の皇子さんは、千日近くも、私たちのような身分の低い職人達と一緒に、作業を行っている所に隠れていて、私たちに蓬莱の玉の枝を作らせていたのです。さらには、皇子さんは、金銭と合わせて、褒美に官職までも私たちに与えると言っていたのです。ところが、できあがると代金も払わずサッといなくなってしまったものですから、私たちも皇子様をしばらく探したんです。すると、皇子様は、かぐや姫様の所に向かったと聞きまして、そのときに、こちらのかぐや姫様がこの『蓬莱の玉の枝』を所望したとも聞いたのです。それで、ここ数日、よくよく考えてみたら、この蓬莱の玉の枝を必要としているのは、皇子さんと結婚されるかぐや姫様なのですから、こちらから代金をいただくのが筋だろうと思って、ここにこうしてやって来たのです」
と書いてあって、かぐや姫が手紙を読み終えて顔をあげると、6人みんなが口を揃えて
「さあ、払ってください」
と言ってきたんだって。すると、日が暮れるまで皇子の話を聞いていたときには「これからどうしよう」としょげ返っていたかぐや姫が、一変して大笑い。すぐに爺さんを呼んで、
「あ~ら、本物の蓬莱の玉の枝だと思っていたら、こんな浅ましい嘘だったなんて。こんな枝、早く返してしまってちょうだい」
と言うと、爺さんも
「はいはい、ハッキリと偽物と分かったわけだから、返すなんて造作も無いこと」
と頷き、その爺さんの様子を見て、かぐや姫は、これで結婚しないで済むと大満足。それで、今までもらっていた、たくさんの和歌の返事として一首だけ、
(本物かと思ってみたら、嘘で飾った玉の枝だったなんて。こんなのいらないわ)
という和歌を書いた紙をつけて、偽物の枝を皇子に返してしまったのさ。ただね、爺さんも、今まで皇子の嘘の冒険話を信じて真剣に聞いていたでしょ。だから、皇子の話が嘘だった事を知って、皇子と話をするにも、どうにも気まずくなっちゃってね。それで、つい寝たふりをしちゃったのさ。皇子はというと、それこそ、気まずくて落ち着かなくなっちゃって、立ったままでいた方がいいのか、座った方がいいのかも分からない感じ。そして、ついには、日が暮れて辺りが暗くなった頃に、こっそりと滑り抜けるようにその場を離れて去っていったんだって。

<ワンポイント解説>
 「嘘をついて、いいふりしていると、それがバレたときに、とんでもない恥をかくよ」という教訓話として読んでおくといいと思います。石造皇子よりは賢く振る舞ったようですが、嘘は嘘。結局は同類ですよね。ただ、庫持皇子、これでは終わらないんですよ。
 また、爺さんのように、嘘のでっちあげ話を信じて真剣に聞いていた方も恥ずかしい思いをしますよね。


 結局、ここでの教訓は、「実際にやってもいないでっち上げ話をしないこと」。そして「そういう嘘臭い話をしている人を信用しないこと」ですよ。それで、実際に色々な人と話していると分かると思いますが、本当にきちんとしている人は、こういう自慢話を得意になって語り出すような事はしません。だから、そういう人がいた場合、まず、疑ってかかることです。

<参考用原文>
 かかるほどに、男ども六人連ねて、庭に出で来たり。一人の男、文挟みに文をはさみて申す。
「内匠寮の工匠、漢部内麻呂申さく、玉の木を作り仕うまつりしこと、五穀を絶ちて、千余日に力を尽くしたること少なからず。然るに禄いまだ賜はらず。これを賜ひて、悪しき家子に賜はせむ」
といひて捧げたり。 竹取の翁、
「この工匠らが申すことは何事ぞ」
と傾き居り。皇子は、われにもあらぬ気色にて、肝消え居給へり。これをかぐや姫聞きて、
「この奉る文を取れ」
と言ひて見れば、文に申しけるやう、
「皇子の君、千日いやしき工匠らともろともに同じ所に隠れ居給ひて、かしこき玉の枝を作らせ給ひて、官も賜はむと仰せ給ひき。これをこの頃案ずるに、御使ひとおはしますべきかぐや姫の要じ給ふべきなりけりと承りて、この御屋より賜はらむ」
と申して、
「賜はるべきなり」
と言ふを聞きて、かぐや姫、暮るるままに思ひわびつる心地笑ひ栄えて、翁を呼び取りて言ふやう、
「まこと、蓬莱の木かとこそ思ひつれ。かくあさましき虚言にてありければ、はや返し給へ」
と言へば、翁答ふ。
「さだかに造らせたる物と聞きつれば、返さむこといと易し」
とうなづき居り。
 かぐや姫の心ゆき果てて、ありつる歌の返し、
「まことかと 聞きて見つれば 言の葉を 飾れる玉の 枝にぞありける 」
と言ひて、玉の枝も返しつ。
 竹取の翁、さばかり語らひつるが、さすがにおぼえて眠り居り。皇子は立つもはした、居るもはしたにて居給へり。日の暮れぬれば、すべり出で給ひぬ。