ツンデレかぐやちゃん(竹取物語)

竹取物語を現代風に訳してみました

石上麻呂足、子安貝奪取作戦開始

 さて「燕の子安貝」を持っていくことになった石上麻呂足は、家に仕えている男達に
「燕が巣を作ったら、私に教えてくれないか」
と命じたんだけど、それを聞いて、集まっていた男の中の一人が
「それをどうするつもりなのですか?」
と聞き返したんだって。それに、石上麻呂足は、
「燕が持っているという子安貝をとるためだよ」
と返事をすると、その男、子安貝の事を知っていたようで
子安貝というのは、燕を殺して腹の中を見ても、全然無かったという話を以前聞いております。何でも、燕が子供を生むときだけ、なぜか巣の中にあるようで、燕はそれをお腹の下に隠しているんだとか。そして、人間が見るとすぐに消えてしまうものなんだそうです」
と、子安貝の説明をしてくれたんだって。すると、それに続いて、別の男も
「そう言えば、帝の食糧倉庫の軒の柱の一本一本に、それぞれ燕が巣を作っているはずです。そこにしっかりした者を連れていって、大きな梯子を作り、巣の中を覗いてみれば、子供を産んでいる燕が見つかるのではないでしょうか。その巣から子安貝を取ればいいのではないかと思います」
と策を授けると、石上麻呂足は喜んで、
「ほほう、なるほど。それは興味深い話だな~。いやあ、全然知らなかったよ~」
と言うと、すぐに20人くらいのしっかり者を選んで、足場を組んで、梯子を屋根に掛けたんだって。

<ワンポイント解説>
 原文では「食糧倉庫」は「大炊寮」、本来は食料全般を扱う役所のような所なんだそうです。「梯子」は「櫓(やぐら)」となっています。最近では「火の見櫓」なんて言っても知らない子が多かったりしますので、今風に直してみました。


 また、石上麻呂足も実在の人物。こちらも壬申の乱の際に功績があった人です。
 そして、ここに出てくる5人についてですが、加納諸平さんが「日本書紀」の中に「阿部御主人、大伴御行石上麻呂藤原不比等、丹比真人」の5人の名前が出てくる箇所を差して、ここから取ったのではないか、という説を提唱しています。ですから、少なくとも阿部御主人、大伴大納言、石上麻呂の3人は同時代の人物で、この物語の時代のイメージを決定づけていると言えそうです。

<参考用原文>
 中納言石上麻呂足の、家に使はるる男どものもとに、
「燕(つばくらめ)の、巣くひたらば、告げよ」
とのたまふを、承りて、
「何の用にかあらむ」
と申す。答へてのたまふやう、
「燕の持たる子安貝を取らむ料なり」
とのたまふ。男ども答へて申す、
「燕をあまた殺して見るだにも、腹に無きものなり。ただし、子産む時なむ、いかでか出だすらむ、はらかくると申す。人だに見れば失せぬ」
と申す。
 また人の申すやうは、
「大炊寮の飯炊く屋の棟に、つくのあるごとに燕は巣をくひ侍る、それに、まめならむ男どもを率てまかりて、あぐらを結ひ上げて、うかがはせむに、そこらの燕、子産まざらむやは。さてこそ取らしめ給はめ」
と申す。中納言喜び給ひて、
「をかしきことにもあるかな。もつともえ知らざりけり。興あること申したり」
とのたまひて、まめなる男二十人ばかり遣はして、あななひに上げすゑられたり。