ツンデレかぐやちゃん(竹取物語)

竹取物語を現代風に訳してみました

爺さんもかぐや姫も、蓬莱の玉の枝を本物だと思ってしまう

 そうしているうちに、ついにかぐや姫の家の門を叩いて
「庫持皇子様がいらっしゃいました」
と皇子の従者が告げてきたので、その様子を見に行った家の者が
「皇子様は、旅の姿のまま、門の外に立っていらっしゃいます」
と爺さんに告げると、爺さんは、門まで迎えに出て、皇子に家の中に入ってもらったんだって。
 庫持皇子が
「命を捨てる思いで、この蓬莱の玉の枝を持ってきました。すぐ、かぐや姫に見せてあげてください」
と言って爺さんに枝を渡すと、爺さんはそれを受け取り、そのときに、枝に付けられている紙に書かれている和歌をチラッと見てみると
(犬死にするような事になっても、絶対、玉の枝を持って帰らねばならぬ、という一心でとってまいりました)
と書いてあったので、この皇子のかぐや姫を思う気持ちを感じ取り、そのままダッシュかぐや姫の部屋へ。そして、部屋に入るや否や、
「ほら、この通り、皇子様は、おまえが言ったのと寸分違わぬ物を持ってきてくださったぞ。もう、これ以上、お断りすることは出来ないよ。旅の姿のまま、自分の家にも寄らず、ここにまっすぐに来てくださったのだから、すぐにこの皇子にお会いして結婚を決めるんだよ」
と言うと、かぐや姫、返事もせず、頬杖を突いたまま
「はあ~~」
と悲しい顔をしてため息。そこに、庫持皇子が
「約束したんですからね~、今更ジタバタしたってダメですよ~」
と言いながら、かぐや姫の部屋の縁側まで入ってきちゃったのさ。その皇子の言うことを聞いて、爺さんも「その通り」と思って、かぐや姫
「さすがに、これは、この国にはない玉の枝ですよ。こういう物を持ってきてくださったんですから、私としても、断る理由は全くありませんし、人柄もよい人だと思いますよ」
と言うと、かぐや姫は独り言のように
「あ~あ、持ってくるのが絶対無理だと思うものを言ったのに、何で持ってくるのよ~。これからまた、別の理由を作ってお爺さん、お婆さんの言うことを、拒まなきゃならないのが、本当に二人に申し訳ないわ~」
と言って、あり得ない物を持ってきてしまった庫持皇子の事を恨めしく思いながらも、どうやってこの場を誤魔化そうか悩んでいたんだって。でも、爺さんは、そんなこと、一切、意に介さず、せっせと布団の準備を始めちゃったんだよね。

<ワンポイント解説>
 このように、物語全体を通してみると、お話の前半部分は、かぐや姫の「ツンデレ」の「ツン」の部分が炸裂しています。ところが後半になってくると、だんだん、優しくなっていって、たぶん、皆さんが思い描いているかぐや姫のイメージに近くなっていきます。最近のアニメなどでも、最初は心を閉ざしていたキャラクターが徐々に心を開いていく、という流れになっているものがありますが、このかぐや姫は、そういう手法に近いのではないかと思っています。


 また、ここではいきなり爺さんが布団の用意をしてしまうのですが、それは、この当時の結婚の風習が「男の人が3日間連続で女の人の所に通ってきて、女の人としっかり結ばれてから、その3日目に、みんなにお披露目」という形式だったから。それで、爺さんとしても、まず、初日の既成事実を作って欲しかったんでしょうね。

<参考用原文>
 かかるほどに、門を叩きて、
「庫持の皇子おはしたり」
と告ぐ。
「旅の御姿ながらおはしたり」
と言へば、逢ひ奉る。皇子のたまはく、
「命を捨てて、かの玉の枝持ちて来たる」
とて、
かぐや姫に見せ奉り給へ」
と言へば、翁持ちて入りたり。この玉の枝に文ぞ付けたりける。
「いたづらに身はなしつとも玉の枝を手折らでさらに帰らざらまし 」
 これをもあはれとも見で居るに、竹取の翁走り入りて言はく、
「この皇子に申し給ひし蓬莱の玉の枝を、一つの所あやまたず持ておはしませり。何をもちて、とかく申すべき。旅の御姿ながら、わが御家へも寄り給はずしておはしたり。はやこの皇子にあひ仕うまつり給へ」
と言ふに、物も言はで、つらづゑをつきて、いみじく嘆かしげに思ひたり。
 この皇子、
「今さへなにかと言ふべからず」
と言ふままに、縁にはひ上り給ひぬ。翁、ことわりに思ふ。
「この国に見えぬ玉の枝なり。この度は、いかでか辞び申さむ。人ざまもよき人におはす」
など言ひ居たり。 かぐや姫の言ふやう、
「親ののたまふことを、ひたぶるに辞び申さむことのいとほしさに」
と、取りがたき物を、かくあさましく持て来たることをねたく思ひ、翁は閨の内しつらひなどす。