ツンデレかぐやちゃん(竹取物語)

竹取物語を現代風に訳してみました

庫持皇子、嘘の冒険談を語る

 さて、結婚の準備をし終えて、爺さんがもう一度、蓬莱の玉の枝を持ってまじまじと見つめながら
「それにしても、こんなに見事で美しい物を、いったいどこで見つけていらっしゃったんですか?」
と庫持皇子に尋ねると、皇子はいかにも得意げに
「そうそう、3年前の2月10日くらいだったかな、難波の港から船に乗って海に出たんだけど、ほら、どこに行っていいかもわかならいでしょう? でも、そのときに、自分の思いを遂げられないなら、生きていたってしょうがないっていう気持ちで、そのまま風に任せて船を進めて行ったのさ。もちろん、命の危険はあったけど、それはそれ、死んだら死んだでしょうがないっていう感じかな。まあ、とりあえず、生きてさえいれば、いずれは蓬莱山に着くだろう、くらいに考えていたんだよね。


 でもね、そうやって、海を漂いながら進んでいると、日本から遠く離れて行ってね、そこで、嵐に遭って船が沈没しそうになったり、風に煽られて知らない国に漂着して、そこに住んでいる鬼のようなやつらに殺されそうになったり、また、あるときは、海の真ん中に出ちゃって、どっちから来たのか、どっちに向かっているのかさえ分からなくなったりしてね、このまま海の藻屑になるのかな、なんて心細くなったこともあったよ。


 そうそう、ある時なんか、食べ物がなくなっちゃって、陸にいるときは草の根を食べたり、海にいるときには、その場で魚や貝を捕って食べたりもしたよ。あ、そう言えば、ちょっと口では言い表せないような変な怪物が出てきて、それに食べられそうになったこともあったんだよね。それから、助けてくれる人が誰もいないところで病気になっちゃったことも何度かあったかな。


 ただ、自分としては、どこに行けばいいかも分からないんだから、とにかく船に任せて進むだけ。そうやって、漂いながら進んでいると、海に出てから500日くらい経った日かな。そのとき、ぼんやりと海の向こうに山が見えたんだよね。それで、船をなんとかそちらの方に近づけていって見てみると、その山は、海の上に浮かんでいるように見えて、すごく大きい山だったのさ。それに、すごく高くてとても綺麗な山だったんだ。だから、私も『これこそ、自分が探していた蓬莱山に違いない』と思ってね、さすがに、そのときだけは、感動で身震いしちゃったよ。

<ワンポイント解説>
 ここまでは、嘘の冒険談の前半。本当は、ずっと続いているセリフなのですが、見やすいように段落に切ってあります。こうやって、嘘を得意になって語る人、今でも居そうですよね。


 さて、この庫持皇子は実名の人はいないんですが、一説によると、藤原不比等ではないか、ということです。この藤原不比等というのは、天武天皇持統天皇などに仕え、大宝律令養老律令の制定に関与した、という話が一般的ですが、実は、この当時編纂された歴史書の「古事記」「日本書紀」にも関わっていたという話があります。それで、ひょっとしたら、この庫持皇子に「でっちあげ話」をさせることによって、「『古事記』や『日本書紀』なんて、不比等がでっちあげた話なんだぞ」ということを暗に皮肉っているのかも知れませんね。


 また、ここの「参考用原文」は、文の途中で区切りが入っています。原文自体が、一つの文にいろいろな内容を詰め込んでしまっているため、訳に合わせて区切りを入れました。原文の最後も、次の項目と一続きの文になっているため、ここでは「、」で原文が終わっています。

<参考用原文>
 ある時翁、皇子に申すやう、
「いかなる所にか、この木はさぶらひけむ。あやしくうるはしくめでたきものにも」
と申す。 皇子答へてのたまはく、
「さをととしの二月の十日頃に、難波より船に乗りて、海の中に出でて、行かむ方も知らずおぼえしかど、思ふこと成らで世の中に生きて何かはせむと思ひしかば、ただ空しき風に任せて歩く。命死なば如何はせむ。生きてあらむ限り、かくありきて、蓬莱といふらむ山にあふやと、海に漕ぎ漂い歩きて、我が国の内を離れて歩きまかりしに、

ある時は浪に荒れつつ海の底にも入りぬべく、ある時には風につけて知らぬ国に吹き寄せられて、鬼のやうなるもの出で来て殺さむとしき。ある時には来し方行く末も知らず、海にまぎれむとしき。ある時には糧尽きて、草の根を食ひ物としき。ある時は、言はむ方なくむくつけげなるもの来て、食ひかからむとしき。ある時には、海の貝を採りて命をつぐ。

旅の空に、助け給ふべき人もなき所にいろいろの病をして、行く方そらもおぼえず、船の行くにまかせて、海に漂ひて、五百日(いほか)といふ辰の刻(とき)ばかりに、海の中に、はつかに山見ゆ。船の中をなむせめて見る。海の上に漂へる山、いと大きにてあり。その山のさま、高くうるはし。これや我が求むる山ならむと思ひて、さすがに恐ろしくおぼえて、