ツンデレかぐやちゃん(竹取物語)

竹取物語を現代風に訳してみました

かぐや姫の欲しいものは

「それでは、かぐや姫に欲しい物を聞いてきますので、それまでしばしお待ちください」
と言って、爺さん、かぐや姫のいる部屋に戻っていって
「5人とも、おまえの言うとおりにすると言ってくれたよ。それで、おまえの欲しい物っていうのは、いったい何なんだい?」
と聞くと、かぐや姫
「それじゃあ、順に言うわね。石作皇子さんには『仏の御石の鉢』、庫持皇子さんは『蓬莱の玉の枝』、右大臣阿倍御主人さんは『火鼠の皮衣』、大納言大伴御行さんは『竜の首の珠』、中納言石上麻呂足さんは『燕の巣の子安貝』をそれぞれ持ってくるように言ってくださる?」
と答えたんだって。でもね、これ全部、実際にあるか無いかも分からない、伝説として語り継がれているような物ばかり。だから、これを聞いた爺さん、
「おいおい、そんなのこの国に無い物もあるし、みんなにどうやって言えばいいんだい。さすがにこんな事を伝えるのは、私としても気が引けるよ。これはちょっと、無理なんじゃないかい?」
と言うと、かぐや姫は、
「え? 何が無理なんですか?」
と、澄まし顔。「どうやら、これ以上話してもダメそうだ」と思った爺さんは、仕方なく5人のところに戻って、順に伝えることにしたんだって。

 それで、爺さんは、5人が待っているところへ戻っていき、
「それでは、順に、持ってきて欲しい物を発表していきます。よろしいでしょうか?」
と言って、みんなが頷くの見てから、
「まず、石作皇子さん、あなたには、インドにあると言われている、伝説の光る鉢、『仏の御石の鉢』をお願いいたします」
と言うと、石作りの皇子もさすがに「そんなもの、この世にあるの?」という顔をして
「え? マジ?」
と驚いた様子。それを見た爺さんは「やっぱりみんな、そう思うよなあ」と思いつつも、かぐや姫の話を伝える事になったときに「もう、どうにでもなれ」と腹をくくっていたので、
「どうしましたか? 無理ならば、辞退してもよろしいのですよ」
と、この時ばかりは、かぐや姫のように、澄ました顔でそう言うと、
「いやいや、分かった、分かった・・・必ず持ってくると、かぐや姫に伝えてくれ」
と、石作皇子は慌てて、そう答えたんだって。
「分かりました。それでは、次は、庫持皇子さん、あなたには、東の海のかなたにあると言われている蓬莱という山にしかない、根は白銀、幹は金、実は真珠と言われている木の枝を一本、折って持ってき欲しいとのこと。よろしいでしょうか?」
と爺さんが言うと、庫持皇子は、石作皇子の話を聞いていたので、まさか、自分がここで辞退するわけに行かないと思い、
「よろしいですよ。私がその『蓬莱の玉の枝』とやらを持ってまいりましょう」
と、気持ちの動揺を隠して、余裕しゃくしゃくのふり。
「それでは、次は、阿倍御主人さん、あなたには、中国にあるという、火を付けても絶対に燃えない『火鼠の皮衣』をお願いいたします」
と爺さんが言うのを聞いて
「なるほど、確かに難題ですな・・・でも、私の財力を持ってすれば、手に入れられない物は無い。よろしい、お受けいたしましょう」
と、阿倍御主人も若干不安のあったものの「まあ、何とかなるだろう」くらいの気持ちで引き受けたんだって。
「次は、大伴大納言さん、あなたには、竜の首についているという五色に光る珠をお願いいたします」
と爺さんが言うと、大伴大納言、さすがに武勇自慢だけあって、
「なあに、竜の一匹や二匹、私の剣にかかればイチコロだ。よろしい。お受けいたそう。それにしても・・・ハッハッハ、もう、かぐや姫は私の嫁になるのが決まったようなものですな~」
と自信満々。
「それでは、最後になりますが、石上中納言さん、あなたには、ツバメの巣の中にあるという安産のお守りとして知られている『燕の巣の子安貝』をお願いいたします」
と爺さんが言うと、石上中納言は「おっ、私のが一番簡単そうだ」と思って、
「そうですか。分かりました。かぐや姫も、私と結婚して私の子を授かることを考えて、そのようなお守りを欲しいと思ったのでしょう。これは、かぐや姫の思いに答えなければなりません。絶対に何とかして持ってこようと思います」
と、調子のいい口調でそう答えたんだって。
 そうして、5人は、それぞれのプレゼントの事を聞いて「それでは、すぐに準備に取りかかりましょう」といそいそと爺さんの前から去っていったんだけど、中には、
「こんな無理な事をいうくらいなら、いっそのこと、家の周りをウロウロしないでくれ、といわれた方がましだったんじゃないか~」
と、うんざりして、愚痴をこぼす者もいたらしいよ。

<ワンポイント解説>
 このシーンは、実は、大幅に脚色してあります。原文では、かぐや姫がちょっとだけ説明をくわえながら言った5つのプレゼントの事を、爺さんが「このように申しておりました」と言ってお終い。どうやら、当時の人たちは、本や言い伝えなどで、そのものがどういう物なのか知っていたようなんですが、現在では、ほとんど誰も知らないと思います。また、人物についてですが、ここに登場する人物にはモデル(というか実名の人もいる)がいて、すぐに人物のイメージも湧いたと思うのですが、今では、それも無理ですよね。
 そこで、プレゼントの説明を爺さんに任せて、その返事で、人柄が分かるように構成し直してあります。ご了承ください。

<参考用原文>
 かぐや姫
「石作の皇子には、仏の御石の鉢といふ物あり、それを取りて賜へ」
と言ふ。
「庫持の皇子には、東の海に蓬莱といふ山あるなり、それに白銀を根とし、黄金を茎とし、白き珠を実として立てる木あり。それ一枝折りて賜はらむ」
と言ふ。
「今一人には、唐土にある火鼠の皮衣を賜へ。大伴の大納言には、龍の首に五色に光る珠あり。それを取りて賜へ。石上の中納言には、燕の持たる子安の貝、取りて賜へ」
と言ふ。 翁、
「難きことにこそあなれ。この国にある物にもあらず。かく難きことをば、いかに申さむ」
と言ふ。かぐや姫
「何か難しからむ」
と言へば、翁、
「とまれかくまれ申さむ」
とて、出でて、
「かくなむ、聞こゆるやうに見せ給へ」
と言へば、皇子たち、上達部聞きて、
「おいらかに、あたりよりだにな歩きそとやのたまはぬ」
と言ひて、倦んじて、皆帰りぬ。