ツンデレかぐやちゃん(竹取物語)

竹取物語を現代風に訳してみました

かぐや姫防衛軍、到着

 このかぐや姫の噂を帝も聞いて、その話の真偽を確かめようと使いの者を遣わしたんだけど、爺さんがその使いの者に会ったとたん、その顔を見ただけで、ワンワン泣きわめき出したんだって。それで、そのときは、爺さんは50才くらいだったんだけど、あまりにも嘆き悲しんだため、ひげも白くなってしまっていたし、腰も曲がって、目も泣きすぎてパンパンに腫れてしまっていて、あまりに悲しみすぎたために、僅かの間にめっきり老けちゃったんだよね。そして、使いの者が
「帝は『かぐや姫の噂を耳に挟んで、辛く思っているのだが、それは、本当のことか?』とおっしゃっております」
と告げると、爺さんは泣いたまま、
「はい。今月の15日に、月の都から使者が、かぐや姫を迎えに来るんだそうです。それで、どうか、帝にお伝えください。今月の15日には、かぐや姫を守るために、こちらに警備隊を寄越してください。そして、月の都からの使者が来たらば、その者たちを捕まえてください」
と、必死にお願いしたんだって。


 それで、使いの者が宮中に戻り、その爺さんの様子や爺さんの話したことを帝に伝えると、それを聞いた帝は
「私など、一日会っただけでも忘れられないのに、爺さんは、そのかぐや姫と、毎日、一緒に暮らしていたんのだから、その悲しみは、私には到底計り知れない・・・」
と言って、爺さんの願いを聞いてあげることにしたんだってさ。

 そこで、いよいよ運命の8月15日。帝は、役所という役所、すべてに通達を出し、高野大国(たかののおおくに)を代表に任命して、日頃、帝の護衛に当たっている部署の総勢2000人を「かぐや姫防衛軍」として、爺さんの家に派遣したんだって。そして、塀の上に1000人、屋根の上に1000人を配置して防衛に当たらせ、爺さんの家の大勢の使用人とタッグを組んで、蟻の入る隙間も無いくらいビッシリと家の周囲を固めたんだってさ。もちろん、家の周囲の者たちは武器に弓矢を持って、武器などを持たない女の使用人たちは、かぐや姫が連れ去られないように家の中に入って守ることにして、婆さんは、かぐや姫を抱くようにして物置小屋に籠もり、その物置の前に爺さんが見張りに立って準備を整え、そのまま辺りをグルリと見渡した爺さんは
「これだけ、しっかり守っていれば、月の都の使者なんかに、負けるわけがない」
と自信満々。そして、屋根の上の人たちに、
「ちょっとでも、怪しいものが来たら、すぐに、矢で撃ち殺してください」
と声をかけると、屋根の人たちも
「これだけしっかり守っているんですよ。コウモリようなものが一匹でも飛んで来たら、まず、それを射殺して、見せしめにしてやりますわい」
と意気揚々。それを聞いて、爺さんも「これなら、大丈夫」と安心したんだって。

<ワンポイント解説>
 ここの場面も、実は「竹取物語のなぞ」として、よく取り上げられる所。その「なぞ」とは「爺さんの年齢のこと」なんです。これ「爺さん、かぐや姫に結婚を勧める」を見てもらうと分かるのですが、そこでは、かぐや姫に結婚を勧める際「私も70才になる」と言っているんですね。ところが、ここでは、それからさらに年月が経っているのに、逆に年齢は若返って、なんと「50才」。それで「作者が間違えたんじゃないか」とか「爺さんがかぐや姫に会って、若返ったのではないか」とか、いろんな説が出てきている所なんです。現実派だと「作者のミス」、ロマン派だと「若返った」という感じでしょうか。
 また、塀の上に1000人、屋根の上に1000人で家を守っているのですが、こんなに人が乗っていると、塀や屋根がつぶれてしまうんじゃないかとか、そっちの方が気になったりします。

<参考用原文>
 このことを帝聞こしめして、竹取が家に御使ひ、遣はさせ給ふ。御使ひに竹取出で会ひて、泣くこと限りなし。このことを嘆くに、ひげも白く、腰もかがまり、目もただれにけり。翁、今年は五十ばかりなりけれども、もの思ひには、片時になむ老いになりにけると見ゆ。
 御使ひ、仰せ言とて翁に言はく、
「いと心苦しくもの思ふなるは、まことにか」
と仰せ給ふ。竹取、泣く泣く申す。
「この十五日になむ、月の都より、かぐや姫の迎へにまうで来なる。尊く問はせ給ふ。この十五日は、人々賜はりて、月の都の人、まうで来ば、捕らへさせむ」
と申す。

 かの十五日の日、司々に仰せて、勅使、少将高野大国といふ人をさして、六衛の司合はせて二千人の人を、竹取が家に遣はす。家にまかりて、築地の上に千人、屋の上に千人、家の人々多かりけるに合はせて、あける隙もなく守らす。この守る人々も弓矢を帯してをり、屋の内には、女ども番に居りて、守らす。
 嫗、塗籠の内にかぐや姫を抱かへて居り。翁も塗籠の戸鎖して戸口に居り。翁の言はく、
「かばかり守る所に、天の人にも負けむや」
と言ひて、屋の上に居る人々に言はく、
「つゆも物空に翔らば、ふと射殺し給へ」。
 守る人々の言はく、
「かばかりして守る所に、かはほり一つだにあらば、まづ射殺して外にさらさむと思ひ侍る」
と言ふ。翁これを聞きて、頼もしがりをり。