ツンデレかぐやちゃん(竹取物語)

竹取物語を現代風に訳してみました

帝、爺さんと秘密の計画を練る

 そして、しばらく思案していた帝は、
「そう言えば、そなたの家は、山の麓近くであろう。それならば、狩りに行くふりをして、そなたの家の近くまでいって、そのときにかぐや姫に直接会ってみるというのはどうだ?」
と言うと、爺さんも
「おお、それは素晴らしい考えです。かぐや姫が油断しているときに、不意をついて会いに行けば、きっと会えるでしょう」
と帝の提案に大満足。それで帝は、すぐに日にちを決めて、狩りに出かけることにしたんだって。

 そうして、狩りの当日。
 帝は爺さんと練った作戦通り、こっそり爺さんの家に入ってかぐや姫の部屋の近くまで行くと、体から光を放っている美しい女の人がいたので「これが、かぐや姫だな」と思って、そのまま部屋の中に入っていったのさ。すると、急に男の人が入ってきてビックリしたかぐや姫は逃げようとしたんだけど、それより先に帝がかぐや姫の袖をしっかり掴んで離さない。それで、かぐや姫は見られないようにと、もう一方の袖で顔を隠したんだけど、帝は、入ってきたときに、すでにかぐや姫の顔をしっかり見ていて「なんて美人だ。もう、これ以上の女の人はいない」と一目惚れ。だから、かぐや姫
「もう、逃がしませんよ」
と言って、そのまま体を抱きかかえて宮中に連れていこうとしたんだって。すると、かぐや姫
「私が、この国に生まれた者でしたら、あなたに仕えたと思いますわ。けれども、私は、この国の者ではないんですのよ。ですから、私をお召しになるのは、難しいと思いますわ」
と落ち着いた口調で言うと、それを聞いた帝は
「何がそんなに難しいのだ。さあ、このまま連れて行くぞ」
と言って「おい、車を頼む」と従者に告げたら、その途端、かぐや姫の体がスッと消えて、残っているのは、薄く透き通った淡い光だけ。手を伸ばしても、その光の中を手が通り過ぎるだけになってしまったんだって。それを見て「かぐや姫の言う難しいとはこういう事だったのか」と気づき、これではいくらなんでも連れていくのは無理と悟った帝は
「そうか、そなたは、本当に人間では無かったのだな・・・・残念だが、連れていくのは止めよう。ただ、お願いだ。もう一度、元の姿に戻ってくれないか。その姿を見て、私はここから去っていこうと思う」
と言うので、かぐや姫は、またスッと、元の姿に戻ったんだって。

<ワンポイント解説>
 かぐや姫が帝に連れ去られないように消えるシーンですが、ここで古文として問題になっているのは「影」という単語。原文では「かぐや姫、きと影になりぬ」なんですが、ここで出てくる「影」をどのように解釈するかで、いろいろな説があります。


 ここでは、かぐや姫は「月の世界の住人」であり、月の淡い光を「月影」ということから、このときは「月のような淡い光になった」という解釈で訳しています。他の訳では違う解釈になっているものもありますから、気になる人は調べてみてください。

<参考用原文>
 帝仰せ給はく、
「造麻呂が家は山本近かなり。御狩りの行幸し給はむやうにて見てむや」
とのたまはす。造麻呂が申すやう、
「いとよきことなり。何か心もなくて侍らむに、ふと行幸して御覧ぜむ。御覧ぜられなむ」
と奏すれば、帝にはかに日を定めて、御狩りに出で給うて、かぐや姫の家に入り給うて見給ふに、光満ちて清らにて居たる人あり。
「これならむ」
とおぼして、逃げて入る袖をとらへ給へば、面をふたぎてさぶらへど、初めよく御覧じつれば、類なくめでたくおぼえさせ給ひて、
「許さじとす」
とて、率ておはしまさむとするに、かぐや姫答へて奏す、
「おのが身は、この国に生まれて侍らばこそ使ひ給はめ。いと率ておはしまし難くや侍らむ」
と奏す。帝、
「などかさあらむ。なほ率ておはしまさむ」
とて、御輿を寄せ給ふに、このかぐや姫、きと影になりぬ。はかなく、口惜しとおぼして、
「げにただ人にはあらざりけり」
とおぼして、
「さらば御供には率ていかじ。もとの御かたちとなり給ひね。それを見てだに還りなむ」
と仰せらるれば、かぐや姫もとのかたちになりぬ。