ツンデレかぐやちゃん(竹取物語)

竹取物語を現代風に訳してみました

子安貝奪取作戦第二弾、開始

 それからというもの、石上麻呂足は、
子安貝は取れたか」
子安貝はまだか」
とひっきりなしに催促。でも、燕は、逆に人がいっぱい集まって来ちゃったから、警戒して巣に寄りつかなくなっちゃったのさ。その様子を聞いて麻呂足、
「いや~、困った・・・どうしよう・・・」
と思っていると、食糧倉庫の管理をしている役人の倉津麻呂というお爺さんが来て、
子安貝が欲しいのならば、良い方法を教えましょうか?」
なんて言ってきたので、麻呂足は「是非頼む」と言わんばかりに、おでこがくっつきそうなくらい顔を近づけて真剣な顔をしたんだって。すると、倉津の爺さん、
「あのような方法では、燕の子安貝は取れませんな。あのような高いところに20人も上らせて、大勢で大げさに騒ぎ立てては、燕はあちこちに散ってしまって寄ってなんか来ませんわ。子安貝を取ろうと思うなら、まず、梯子を全部取っ払って、人もみな近寄らないようにして、ロープを着けた籠にしっかりした人を1人だけ乗せて、燕が子供を生んだときに、そのロープを引っ張って上に持ち上げる。そうすりゃ、間違いなく取れますよ」
と、その方法を教えると、麻呂足、
「おお、まさにそれだ」
と、今までかけていた梯子を全部取り外して、人を皆帰したんだって。
 ところが、そこで、ふと、あることに気づいた麻呂足、
「そう言えば、燕が子供を生んだことをどうやって知ればいいんだい? 梯子、外しちゃったけど。このままじゃ、籠を上に引っ張り上げるタイミングが分からんだろ」
と倉津の爺さんに聞くと、爺さんは
「いやいや、心配ご無用。燕は子供を生むときに『しっぽをピンと立てて、巣の中で7回クルクルと回ってから生む』という習性があるんじゃ。だから、下から見ていて、燕が回りだしたら、そのときに籠を引き上げて、子安貝を取ればいいんじゃよ」
と説明。それを聞いた麻呂足、
「いやあ、素晴らしい」
と、この事を秘密にして、みんなには知らせず、こっそり見張りの男達の中に混じって、自分も一日中見張ることにしたんだって。


 そして、倉津麻呂が子安貝の取り方を教えてくれたことに対しても、
「私に仕えている訳ではないのに、私の願いを叶えてくれるなんて、本当に嬉しい」
と、自分の着ている服を褒美に与えて、さらに
「実際に子安貝を取るときにも、あなたのアドバイスが必要になるかも知れないから、夜になったら、また、食糧倉庫に来てくれないか」
とお願いしたんだってさ。

<ワンポイント解説>
 今でもいますよね、自分でやったことも無いのに「こうしろ、ああしろ」と知ったかぶりをして口を挟んで来る人。その代表がこの倉津麻呂の爺さんです。


 また、自分の来ている服をその場で脱いで、褒美として相手に与えるという習わしは、かなり一般的に行われていたようです。他の古文でもそういうシーンが出てきますので、ここで覚えておくといいでしょう。

<参考用原文>
 殿より使ひひまなく賜はせて、
「子安の貝取りたるか」
と問はせ給ふ。燕も、人のあまた上り居たるにおぢて、巣にも上り来ず。かかる由の返事を申したれば、聞き給ひて、
「如何すべき」
とおぼし煩ふに、かの寮の官人倉津麻呂と申す翁申すやう、
子安貝取らむとおぼし召さば、たばかり申さむ」
とて御前に参りたれば、中納言、額を合はせてむかひ給へり。
 倉津麻呂が申すやう、
「この燕の子安貝は、悪しくたばかりて取らせ給ふなり。さてはえ取らせ給はじ。あななひにおどろおどろしく二十人の人の上りて侍れば、あれて寄りまうで来ず。せさせ給ふべきやうは、このあななひをこほちて、人皆退きて、まめならむ人一人を荒籠に乗せ据ゑて、綱を構へて、鳥の子産まむ間に綱をつり上げさせて、ふと、子安貝を取らせ給はむなむ、よかるべき」
と申す。
 中納言のたまふやう、
「いとよきことなり」
とて、あななひをこほち、人皆帰りまうで来ぬ。
 中納言、倉津麻呂にのたまはく、
「燕は、いかなる時にか子産むと知りて、人をば上ぐべき」
とのたまふ。倉津麻呂申すやう、
「燕、子産まむとする時は、尾を捧げて七度めぐりてなむ、産み落とすめる。さて、七度めぐらむ折、引き上げて、その折、子安貝は取らせ給へ」
と申す。
 中納言喜び給ひて、よろづの人にも知らせ給はで、みそかに寮にいまして、男どもの中に交じりて、夜を昼になして取らしめ給ふ。倉津麻呂かく申すを、いといたく喜びて、のたまふ。
「ここに使はるる人にもなきに、願ひをかなふることのうれしさ」
とのたまひて、御衣脱ぎて被け給うつ。
「更に夜さりこの寮にまうで来」
とのたまうて、遣はしつ。