ツンデレかぐやちゃん(竹取物語)

竹取物語を現代風に訳してみました

金で勝負の阿倍御主人

 右大臣阿倍御主人は、大金持ちでとても大きな家に住んでいる人だったんだって。それで、その年に中国から船でやって来ていた商人の王慶という人と仲良くなっていたから、王慶に「火鼠の皮衣というものを買ってきてくれないか」と手紙を書いて、使用人の中でもしっかりしている小野房守(おののふさもり)という人に、王慶に手紙を渡してくれるように頼んだのさ。


 そこで、小野房守は実際に中国まで行って、王慶に会って手紙とお金を渡すと、王慶は、その手紙を読んで、その返事に
「『火鼠の皮衣』は、おそらく中国には無いですね。それに、自分自身も話だけは聞いたことはあるけれども、まだ見たことが無いんですよ。それで、もしも『火鼠の皮衣』が実際にあるものなら、中国は、世界中の物が集まって来るところだから、自分も見たことがあるはずなのに、そうじゃないわけだから、実際にあったとしても、かなり手に入れるのが難しいものだと思いますよ。もしも、インドに行くような事があったら、そこの長者に話をしてみますが、それでも無かったら、代金は使いの者に渡して、お返ししますね」
と書いて日本に送り、小野房守はそのまま中国に残ることになったんだって。

<ワンポイント解説>
 阿倍御主人は、先に書いたように資産家で、何でも金で解決しようとするタイプとして描かれています。やはり、当時から「何かというと金」って言う人は、嫌われていたみたいですね。さらに、お人好しで最終的に人に騙されるという、かなり損な役回り。要するに「徹底的にやられちゃってる」訳です。


 また、阿倍御主人は実在の人物名で、日本書紀では持統天皇の項目の中に名前が出てきています。その記録によると、かなりの俸禄をもらっていたようで、こちらは、実在の方もお金持ちだったようですよ。

<参考用原文>
 右大臣阿部御主人は、財豊かに家広き人にておはしけり。その年来たりける唐土船の王慶といふ人のもとに、文を書きて、
「火鼠の皮といふなる物買ひておこせよ」
とて、仕うまつる人の中に、心たしかなるを選びて、小野房守といふ人をつけて遣はす。
 持て至りて、あの唐土に居る王慶に金を取らす。王慶、文をひろげて見て、返事書く。
「火鼠の皮衣、この国に無きものなり。音には聞けども、未だ見ぬ物なり。世にある物ならば、この国にも持てまうで来なまし。いと難き商ひなり。然れども、もし、天竺にたまさかにもて渡りなば、もし長者の辺りに訪ひ求めむに。無きものならば、使ひに添へて、金をば返し奉らむ」
と言へり。