ツンデレかぐやちゃん(竹取物語)

竹取物語を現代風に訳してみました

 かぐや姫に求婚者、殺到!

 そうやって、かぐや姫の事をみんなにお披露目したせいで、世の中の男たちは、身分の高い者も低い者も、みんな「かぐや姫をお嫁さんにしたい」「一目だけでも会ってみたい」と噂し会って、それを聞きつけた者が、かぐや姫の家の周りにどんどん人が集まってきてしまったんだって。


 でもね、かぐや姫のために雇った付き人たちでさえ、御簾越しに話すだけだったりして、滅多に見ることができないんだから、そんな簡単にかぐや姫の姿を見ることなんか出来なくて、男達は、夜も寝ないで家の周りで粘ったり、家の垣根に穴を開けて、そこから覗こうしたりと必死だったんだって。なんかストーカーみたいでしょ。


 だけどね、当時の結婚の風習っていうのは、正式には、男の人が女の人の所に通っていって、女の人が許してくれて始めて顔を会わせられるっていうスタイルだったんだよね。だから、実際に美人かどうかは、お許しをもらって顔を見るまで分からないのさ。だけど、そこは、ほら、やっぱり本当に美人かどうかということを先に確かめておきたいでしょ。それで、こっそり覗き見をするのが当時の風習だったんだ。

 それにね、もしも、覗き見できなかったとしても、結婚するためには、女の人のお許しをもらわなければならないから、男の人としては、まず、女の人に会ってお話をするために、とりあえず「美人だ」という噂だけでも「愛してます」なんてラブレターを送ったりしていたわけ。それにね、噂だけでそれほど美人じゃないっていう女の人だと、良さそうな男の人が来たら、早めに会って結婚しようとするんだけど、かぐや姫は一切返事をしない訳でしょ。だから、集まってきている男たちは、覗き見をしても、手紙を書いても、なかなか顔を見ることが出来ずに、焦らされれば焦らされるほど「こりゃ、ひょっとしたら、とんでもない美人かも知れないぞ」なんて、気持ちがドンドン高まって行っちゃったのさ。だから、かぐや姫のところに集まってくる男の人たちも、気持ちがもう、ズッキュン、ドッキュンっていう感じ。皆、かぐや姫のことで頭がいっぱいになっちゃったんだって。

 ちなみに、こうやって、男の人がかぐや姫に会いたくて、夜中に家の周りを這いつくばっていたところから、結婚したいと思っている女の人のところに通っていくことを当時の言葉で「夜這い」って言うようになったんだよ。なんちゃって~。

<ワンポイント解説>
 ここでのポイントは、何と言っても最後の「なんちゃって~」というところです。ハッキリ言って、こんな語源は嘘。「竹取物語」の作者は、どうやら、こういう茶目っ気があったようで、この「語源」の「なんちゃって解説」をこの後、何度も入れてきます。ご存じの方もいらっしゃると思いますが、物語の一番最後の「富士山の語源」も、この「なんちゃって解説」ですからね。


 また「ズッキュン、ドッキュン」のくだりは、原文だと「垣間見、惑いあへり」くらいしか無いのですが、これだけだと、当時の風習を知らない限りイメージが湧かないと思いますので、解説を入れながら、今だったらこんな感覚だろうという内容を補足してあります。

<参考用原文>
 世界の男、あてなるも卑しきも、いかで、このかぐや姫を得てしかな、見てしかなと、音に聞きめでて惑ふ。そのあたりの垣にも、家の門にも、居る人だにたはやすく見るまじきものを、夜は安き寝も寝ず、闇の夜に出でても、穴をくじり、垣間見、惑ひ合へり。
 さる時よりなむ、「よばひ」とは言ひける。